ある東洋の小話によると、むかしとても裕福な魔術師がいて、たくさんの羊を飼っていた。
この魔術師は、とてもケチだった。羊飼いを雇いたくない。羊たちのうろつく草原に柵を設 けるつもりもない。羊たちはよく森に迷い込んで、断崖から落ちることもあった。それによく 逃げ出した。魔術師が自分たちの肉と皮を欲しがっているのを羊たちは知っていて、これ は勘弁してもらいたかったからだ。
ついに魔術師はいいことを思いついた。彼は羊を催眠にかけ、羊たちに暗示した。
第一 に、おまえたちは不死身であり、皮をはがれてもだいじょうぶ。それは健康によいことで、 気持ちいいぐらいだ。
第二に、魔術師は良き主人であり、羊たちが大好きだ。羊たちのた めなら何でもする。
第三に、何が起こるにせよ、それは今日のことではないので、心配は いらない。
さらに魔術師は、おまえたちは羊ではないのだと暗示をかけた。何匹かには、 おまえたちはライオンなのだと言った。何匹かには、おまえたちはタカなのだといった。何 匹かには、おまえたちは人間だと言った。何匹かには、おまえたちは魔術師だといった。
このすべてを終えた後、魔術師はもう、羊のことで気をもんだり、心配したりすることがなく なった。羊たちはもはや逃げようとせず、魔術師が彼らの肉と皮を必要とする日が来るの をおとなしく待つようになった。
この話は、人間の置かれた状況をよくあらわしている。
("奇蹟を求めて"より)
2021/01/04
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